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働き方を模索する緩和ケア認定看護師の物語

【実録】がん患者さんとのコミュニケーション

私は緩和ケア認定看護師として6年目になります。
身体的・社会的・精神的・スピリチュアルな苦痛を抱えている患者さんと面談を繰り返してきました。
がん患者さんは特に【死】を意識することが多く、不安な気持ちで過ごされている方も多く、医療者のちょっとした言葉が気になって傷ついてしまうこともあります。私はスタッフナースとしての業務とは別に、年間50名程度の患者さんと個別で面談をしてきました。言葉の選び方や伝え方の大切さや難しさは、重々承知しております。
そんな私が実践している【使えるコミュニケーションスキル3選】を先日ご紹介しました。
inudogblog.hatenablog.com

認定看護師として、自分の職場だけでなく、地域のコメディカルの方を対象に講習会をしたりもしましたが、教科書的な内容の講義よりもやっぱり【現場の生の声】というのが、1番興味を引くし、今後に活かせる内容になるんだなと感じています。私もコミュニケーションスキルを身につけるまで、自分の言葉や態度が患者さんに苦痛を与えていないか、何が正解なの常に手探りでした。先人が、実際に患者さんからどんな言葉をかけられて、どんな言葉で返しているのか?現場で体験する意外に知るすべがありませんでしたから。体験談を知りたくてたまらなかったんですよね、私は。

ということで、所属部署で講義をするときは、私が面談で対応した症例を紹介していました。講義を終えて、参加していた後輩看護師から「返答に困る質問をされているのに、その返しがすごすぎて鳥肌がたった。絶対自分には思いつかないし、何も返せなかったと思う。感動しました!」とまで嬉しい言葉をかけてもらったことがありました。

実際に私ががん患者さんに何を言われて、なんと返していたか3事例ご紹介したいと思います。
(※個人情報保護のため、詳細は書きません)


1.「死ぬのが怖い。あとどれくらい生きられる?先生は寿命を教えてくれない。
ありがちなやつですね。現場の看護師が苦手とするこの問いかけ。私の職場はパートナーシップ制度で、患者さんと直接関わる看護師+その場で看護記録をする看護師が2人1組でラウンドしていたので、明らかに困ってフリーズしちゃう看護師がほとんどでした。絞り出すように「どれくらい・・・そうですね」とまで言葉が出て、そのあと答えに詰まる後輩が多いなと思っていました。
私がなんと返したか?

▶【死ぬのって怖いですよね。経験者に話を聞けないし、自分が経験していないからただただ怖いですよね。】
怖いと感じている患者さんの気持ちにまずは寄り添う発言が必要ですよね。受容・共感的態度というのはとっても大事です。どうして怖いと思っているのかというと、人間って経験したことがないことに恐怖心を抱きやすい生き物ですから。私だって、死が近いと感じたとき、自分の精神や肉体はどう変化して、魂はどこに行くんだろう?と怖くなるだろうなと思います。

▶【あなた自身は、あとどれくらい生きられると思いますか?】
出ました!『返答に困る質問には、あえて質問で返す』というテクニックですね。
自分の中にもう答えがある患者さんも多いものです。普段の私たちもそういうもので、服を買うときに色で悩んだとして「赤と青どっちが良いと思う?」と尋ねて「赤」と言われると「赤かー。えー、でもやっぱり青にしようかな」みたいなことって経験ありません?自分の中に答えはある場合って、誰にでもありますよね。肯定してもらえるの待ちだったりしますよね。
とはいえ、本当におおよその寿命を知りたいと思っている患者さんもいるかもしれませんよね。その場合は、医師や家族と相談して、伝える場合もあります。私が受けた研修では、季節のお花を伝えるという先生もいました。なんだかおしゃれですよね。「桜が咲く頃かな」とか「コスモスの頃でしょうか」とか。
患者さんにも「今年が最後の桜か」と言われたことがあります。【じゃあ、私と一緒に桜を見ながら昼食を食べましょう!】とお話ししたこともあります。それからというもの、患者さんが桜の開花がまだかと毎日窓の外を眺めて楽しそうにしている姿を思い出します。死が差し迫っているとしても、小さな希望や目標をもつことで、患者さんの心を支えることもできるんですよね。

▶【寿命が気になるんですね。やり残したこととか、何かしておきたいことがあるんですか?】
私としては、これが1番患者さんから引き出したいことです。
寿命が気になるのは、単純にいつまで生きられるのか気になるだけかもしれません。ですが、ほとんどの場合、何かしたいことがあるんです。そこを引き出せるかどうかで、これから先のケアに影響してきます。残された時間で私たち看護師に何ができるのかはやっぱり考え続けなければなりません。
患者を亡くして残される家族にも「最期に希望を叶えてあげられた」と思ってもらいたいし、その思いがつらくても生きていく支えになることもあります。叶えられることであれば、なんとしても叶えて差し上げたいですよね。
患者さんは、身辺整理をしておきたいとか、残してしまう家族を困らせたくないとか、いろんな気持ちをもたれているんですよね。患者さんに残された時間に何ができるのか、何なら叶えられるのか、患者さんだけでなく、家族や医療者と話し合う場面を作りたいものです。


2.「暗闇にひとりでいる夢を見た。死んだらあそこに行くんじゃないかって思うんだよね。
この発言は特殊なエピソードですね。死後の世界を気にされていた患者さんの発言です。死期が近い患者さんに死後の世界を話題にされたとき、看護師さんは動揺してしまうかもしれませんね。患者さんが何を求めているのかわかりませんもんね。後輩看護師からは、この話題を深掘りする勇気がないと言われました。
このときの私の返答とは?

▶【どんな世界でした?苦しい夢でしたか?】
これは純粋に患者さんがどんな夢を見て、どうな風に感じて、どうしてそこを死後の世界と思ったのかが知りたくなったのです。患者さんは「そういえば苦しくはなかったな。誰もいなくてひとりぼっちだったけど、寂しいとも怖いとも痛いとも思わなかった気がする」と教えてくれました。

▶【そこがもし死後の世界だったとして、あなたにとって苦しみのない世界でよかったです】
ホッとしました。患者さんが暗闇の中で苦しむ夢をみて、そこを死後の世界かもしれないと思っていたら、心配になりますよね。ですが、苦しみから解放されていて、静かな環境で恐怖心もなく過ごしていたところを死後の世界かもしれないと教えてくれたのです。安心したし、本当に死後の世界がそんなに穏やかな世界だといいですねと笑い合いました。


3.「私は死ぬのを待つだけ。あんたはまだ若いからいいね。
これは臨床で比較的よく聞いた言葉です。看護師さんによっては「そんなこと言わないでくださいよ」とか「まだ大丈夫ですよ」とか返答に困って何か変なことを口走ってしまうかもしれません。
ですが、緩和ケアってユーモアも必要なんですよね。なんでも真面目すぎるほど真面目に受け取っていると、自分も患者さんも苦しくなるときがあります。
患者さんのキャラクターを把握しておくことは重要ですが、ユーモアを交えて返すことだってあります。真剣に答えるときはとことん真剣に、ですが、抜くところは抜いて少し気持ちが和む時間を作るのも大切です。『緩和』って緩めて和むと書くんですよね。つらさを緩めて、こころが和むときを提供しなければ!

▶【みんないつか死ぬんだから!私もあとで逝きますから、またあっちの世界で会いましょう!】
ジョークが好きな明るい患者さんだけでなく、どちらかというとおとなしく真面目な印象の患者さんであっても、ときどきユーモアを交えてコミュニケーションをとるようにしています。患者さんって案外、生きとし生けるもの皆いつか死ぬということを忘れがちなんですよね。いや、私もそりゃいつか死ぬからな!と思うわけですよ。死後の世界があるかどうかわかりませんが、私は魂が還る場所はあるのかなって勝手に信じているので、そこでまた会えたらいいなと純粋に思っています。だから、死が怖くて悲しいだけではないんだと患者さんが思えたら、どんなに気が楽になるだろうって感じてるんですよね。


コミュニケーションは、受け手に決定権があるので、自分が伝えたい意図が伝わらないことだってあります。これはもう、本当に場数を踏むしかないんです。不快にさせてしまう可能性だってありますが、その逆で患者さんの心を救える看護師になれる可能性だってあるんです。その場から逃げずにコミュニケーションスキルを磨く努力をしたからこそ、患者さんから「話を聞いてほしい」と指名をされるようになったし、スタッフからも「患者さんにこう言われて困ったけど、そんなときどう返しますか?」と相談を受けるようになりました。繰り返し鍛錬するのみです。

正解と不正解の判定が難しいのも事実です。だからこそ、そんなときは認定看護師を現場に巻き込むといいと思います。実践場面をその場で見れるのが1番勉強になると思います!私も自分のコミュニケーションに自信がないときは、先輩の認定看護師の面談の様子をこっそり見学させてもらってました。教科書には載っていないので、どんな雰囲気で、どんな言葉を選んで、どんな態度を示しているのか、生で見るのが1番です。


今回はたった3例のご紹介だったのですが、誰かの参考になるといいなと思っています。


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